2021年4月26,27日 三重県南伊勢町 スミナガシ

 この日は三重県南伊勢町のスミナガシを撮影に出かけた。ここのスミナガシはすでに4月19日に2頭確認しており、今年の発生はかなり早いようだ。この辺りはウバメガシ主体の樹林なので、蝶もそういう木の葉上にテリを張る。海岸は近いのだが、残念ながらこの位置からは海背景の姿は撮れない。

静止するスミナガシ♂ 三重県南伊勢町 2021年4月26日
静止するスミナガシ♂ 三重県南伊勢町 2021年4月26日

 スミナガシはあれだけの猛スピードで飛んで激しい卍飛翔も演じているのに、翅はそれほどのダメージを受けている様子はないのが不思議である。

静止するスミナガシ♂ 三重県南伊勢町 2021年4月27日
静止するスミナガシ♂ 三重県南伊勢町 2021年4月27日

 大きな岩の上もお気に入りのテリ張り場所となる。この場所は周りより少し低い場所にあるので、ここからも海背景の静止を狙うことはできない。

静止するスミナガシ♂ 三重県南伊勢町 2021年4月27日
静止するスミナガシ♂ 三重県南伊勢町 2021年4月27日

 何枚か静止姿を撮影した後は、飛翔を狙った。目標はもちろん「海背景のスミナガシの飛翔」である。

飛翔するスミナガシ♂ 三重県南伊勢町 2021年4月27日
飛翔するスミナガシ♂ 三重県南伊勢町 2021年4月27日

 ここは海に面した尾根状の地形で、20m程離れてテリ張りポイントが2か所あり、スミナガシはそれぞれの場所でテリを張っている。そして侵入者を猛烈な速度で追尾飛翔したり、駆逐した後に元の場所に戻る時に海を背景に望めるポイントを通過する時がある。

飛翔するスミナガシ♂ 三重県南伊勢町 2021年4月27日
飛翔するスミナガシ♂ 三重県南伊勢町 2021年4月27日

 このピンポイントに佇んで、スミナガシが高速で目の前を通過するのをじっと待つのである。そして蝶が通過するその一瞬を狙って背景を意識しながら全集中の呼吸で切り取る。これこそ飛翔撮影の醍醐味!

下はかなり気に入ったショット。もう少し絞っておけば被写界深度が深くなり、ピントが合いやすいのだろうけど、シャッター速度が高いのでできるだけISOをあげないという選択をしている。

飛翔するスミナガシ♂ 三重県南伊勢町 2021年4月27日
飛翔するスミナガシ♂ 三重県南伊勢町 2021年4月27日

 ところで耳元を飛ぶと翅音さえ聞こえてくるスミナガシだが、実際にどれくらいの速さで飛んでいるのだろうかというのが気になったので簡易的に計算してみた。下は60枚/秒で撮影したうちの連続した2枚を合成したもので、右下の個体が1/60秒後に左上に移動したことを示している。この間の移動距離を蝶の標準の体長をもとに計算すると約160mmになる。換算すると1秒間に960cm。つまり約9.6m/秒=35km/時となる。この間の蝶とカメラの距離が一定というわけではないが、おおよその目安にはなるだろう。これは侵入個体を駆逐した後に元のテリ張り位置に戻る時の速さなので、侵入相手を必死で追尾している時はもっと速いのかもしれない。



 ときどきテリ張り場所を飛び立って下のように巡回飛翔を行う。この時の飛翔速度は約5m/秒くらいとなり上の場合の約半分でゆったりとしている。 
 
飛翔するスミナガシ♂ 三重県南伊勢町 2021年4月27日
飛翔するスミナガシ♂ 三重県南伊勢町 2021年4月27日

 3枚上と同様なアングルだが、太陽光と翅の向きが合致したのか色調がきれいに出ているのでこれがこの日のベストショットになる。
 飛翔するスミナガシ♂ 三重県南伊勢町 2021年4月27日
飛翔するスミナガシ♂ 三重県南伊勢町 2021年4月27日

 ピークでテリを張るスミナガシの撮影を始めてから10年以上経つ。初期のころは大汗をかきながら一時間以上かけて大紀町の山に登って撮影していたが、その後は車を横づけできるような楽な場所も見つけることができた。しかしそれらの場所からは、ずっと意識していた「海背景のスミナガシの飛翔」の撮影はかなわなかった。今回は大紀町の山ほどではないもののウバメガシの樹林をアップダウンして到達できる場所で、今は海を背景にできるポイントがある。しかしこういう場所は人為的にできたところでもあるのでいつまでも継続していくわけではなく、消滅するのもまた早いというのも事実である。そういう例はこれまでたくさんの撮影地で見てきているので、それまでの間にできるだけ撮影しておきたい。

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