2024年3月14〜22日 鹿児島県 奄美大島1 イワカワシジミ 1

 2024年の撮影は3回目の春の奄美大島から開始した。もう少し時期を遅らせるとアカボシゴマダラも狙えるというのに、それにあえて背を向けるかのようにいつもこの時期に出かけている。今回の目的はズバリ「イワカワシジミの占有行動(テリ張り)の撮影」である。
 ここ数年はイワカワシジミのテリ張りについて機会ある毎に周りの方に尋ねてきたが、ほとんどの方の答えは「イワカワのテリ張りは見たことがない」あるいは「イワカワってテリを張るの?」というものだった。
 私にとっての奄美のイワカワのテリ張りは、長年情報を交換している撮影仲間の東京のOさんからの2018年の観察記録が初めである。そして翌2019年には私も別のテリ張り場所を見つけて撮影に成功し、一緒にテリ張り行動の探索を始めた。その後、コロナ禍で進捗に足踏みがあったが、2023年に再びOさんから決定的な知見がもたらされ、それを受けての本年の撮影となった。今年は3月7〜22日まで約2週間、前半はOさんが調査し、途中の数日のすりあわせ期間を挟み、後半は私が観察を進めた。
 少し前置きが長くなったが、得られた写真を順次紹介していきたい。まずイワカワシジミの食樹であるクチナシ。この時期は黄色い実がたくさんついている。



 イワカワシジミのテリ張りは午後の13時すぎから始まり、終了は16時頃までだったが、これは春のせいかもしれない。沖縄本島で9月に観察された例ではもっと夕刻によっていたとのこと。

静止するイワカワシジミ♂ 鹿児島県奄美市 2024年3月15日
静止するイワカワシジミ♂ 鹿児島県奄美市 2024年3月15日

 下の個体は活動するべき時刻にクチナシの木で静止していた♂。活動は鈍く、小飛してとなりの灌木にうつった。非常に新鮮だったので性的にまだ未成熟だったのだろうか。

静止するイワカワシジミ♂ 鹿児島県奄美市 2024年3月18日
静止するイワカワシジミ♂ 鹿児島県奄美市 2024年3月18日

 上の個体の裏面の肛角付近はやや褐色味を帯びている。こういう個体から思い出すのは、月刊むし53号(1975年)の巻頭を飾った奄美イワカワの飼育による低温期型である。それに憧れて数年後の秋に奄美大島で幼虫を採集して自宅で飼育して羽化したのが下のような個体だったのを想い出す。




 活動時刻は葉上で翅を開くことがあるのでこういう時が撮影チャンスである。奄美大島の春の個体は翅表に白斑を表すことが多いようだ。

開翅するイワカワシジミ♂ 鹿児島県奄美市 2024年3月22日
開翅するイワカワシジミ♂ 鹿児島県奄美市 2024年3月22日

 翅表のブルーは奄美の海の色を映したかのような深い色である。イワカワシジミの♂の翅表はこれまでほとんど撮られたことがないのかもしれない。日本チョウ類保全協会編のフィールドガイド(2019)ではかなり破損した台湾産の個体の写真が使われている。

開翅するイワカワシジミ♂ 鹿児島県奄美市 2024年3月22日
開翅するイワカワシジミ♂ 鹿児島県奄美市 2024年3月22日

 樹上に静止しているところを接近して広角レンズで撮影してみた。活動の後半になるとちょっと反応が鈍くなるので蝶への接近が容易になるが、開翅はしにくくなる。他の蝶が付近を飛んでも追尾することが減り、まどろんでいるようにも見える。

静止するイワカワシジミ♂ 鹿児島県奄美市 2024年3月22日
静止するイワカワシジミ♂ 鹿児島県奄美市 2024年3月22日

 もっと低い位置への静止姿。もう少し翅を開いてくれれば良かったのだが、ここでは半開まで。


開翅するイワカワシジミ♂ 鹿児島県奄美市 2024年3月22日

 高いところに静止した姿を真上から撮影できた。コンデジのインターバル撮影であるがうまく撮影できたと思う。


開翅するイワカワシジミ♂ 鹿児島県奄美市 2024年3月22日

 ♀もテリ張り場所付近で見かけた。


静止するイワカワシジミ♀ 鹿児島県奄美市 2024年3月16日

 きわめて新鮮な♀の半開翅。奄美の春の♀は白斑がくっきりとして前翅にまで現れている。

半開翅するイワカワシジミ♀ 鹿児島県奄美市 2024年3月16日
半開翅するイワカワシジミ♀ 鹿児島県奄美市 2024年3月16日

 葉上で回転したので、後方からの姿も撮影できた。この♀が現れたのは♂の活動時刻が終了する間際の15時30分頃だったので、近くで交尾が終了した後だったのかもしれない。

半開翅するイワカワシジミ♀ 鹿児島県奄美市 2024年3月16日
半開翅するイワカワシジミ♀ 鹿児島県奄美市 2024年3月16日

 全開したのだが、上から撮るには足場の高さが足りなかった。

開翅するイワカワシジミ♀ 鹿児島県奄美市 2024年3月16日
開翅するイワカワシジミ♀ 鹿児島県奄美市 2024年3月16日

 今回、私が奄美大島に滞在した9日間のうち、雨や暴風でどうしようも無い気象条件の日以外は、ほとんど毎日、同じ場所でイワカワシジミのテリ張りを観察することができた。しかし観察できる個体数は日によるムラがあり、10頭以上をみた日の翌日でもほんの2〜3頭というときもあった。
ネットには昨年秋の奄美のイワカワ幼虫は豊作だったという情報もあるので、この春が特に個体数が多かったのかもしれないが、ここが安定したテリ張り場所の一つであることは間違いないようだ。

 こうして2018年から始まったOさんとのイワカワシジミのテリ張り探索は、6年かかったがようやくこのレベルまでたどり着けた。撮影に成功した夜にOさんと祝杯を上げたのはいうまでもない。

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