2024年10月22〜29日 沖縄県石垣島 8 シロモンクロシジミ

 これまで何度となく八重山を歩いているが、シロモンクロシジミを撮影したことはなかった。昨年も石垣島へ来る一週間前までは発生していたという木を教えていただいて、滞在期間中に連日のように通ったのだが、すでに時期遅くその姿を見ることはできなかった。そんなことから神出鬼没のこの蝶は、「今、発生している」という情報をいただいたら直ぐに現地に駆けつけなければ、観ることはかなわないのではないかと思っていた。
 それでも今回の石垣島へ行ってから4日目、未練がましくカイガラムシを意識しながらある林道を歩いていたとき、2mほどの高さを緩やかに飛び、葉先に止まったシジミチョウが見えた。とっさのことで何という蝶か種名が思い浮かばなかったが、「もしかして」と思いながらカメラを構えてみると、それは探し求めていたシロモンクロシジミだった。予期していなかった出会いであり、あまりのことに驚きながら、とにかく何枚もシャッターを切った。

静止するシロモンクロシジミ♀ 沖縄県石垣島 2024年10月25日
静止するシロモンクロシジミ♀ 沖縄県石垣島 2024年10月25日

 とりあえず姿は確保できたので、反対側へ回り込んでみたところ、蝶はゆっくりとV字開翅して少しだけだが翅表を見せてくれた。時刻は10時20分、この間約1分でほどなく林の中へ消えていった。

この偶然の遭遇がきっかけとなり、同行していた撮影仲間のSさん、および同時期に渡島していたOさんを巻き込んでの調査が始まった。Sさんは南西諸島は久しぶりだがポイントの探索では大きな実績があるし、Oさんは昨年西表や石垣で実際にシロモンクロシジミの活動を撮影している。

静止するシロモンクロシジミ♀ 沖縄県石垣島 2024年10月25日
静止するシロモンクロシジミ♀ 沖縄県石垣島 2024年10月25日

 翌26日は朝から周囲を探索してみた。記憶していたシロモンクロシジミの知見はセンダングサのような丈の低い草本に付くカイガラムシ周りでの発生しかなかったが、前日に蝶が飛んでいた辺りの木本の枝先を注視しているとそれらしい蝶が飛んでいるのが見えた。

飛翔するシロモンクロシジミ♀ 沖縄県石垣島 2024年10月26日
飛翔するシロモンクロシジミ♀ 沖縄県石垣島 2024年10月26日

 下から見上げる角度なのだが、何とか翅表も撮影することができた。

飛翔するシロモンクロシジミ♀ 沖縄県石垣島 2024年10月26日
飛翔するシロモンクロシジミ♀ 沖縄県石垣島 2024年10月26日

飛翔するシロモンクロシジミ♀ 沖縄県石垣島 2024年10月26日
飛翔するシロモンクロシジミ♀ 沖縄県石垣島 2024年10月26日

飛翔するシロモンクロシジミ♀ 沖縄県石垣島 2024年10月26日
飛翔するシロモンクロシジミ♀ 沖縄県石垣島 2024年10月26日

♀がこういう枝先に執着して飛ぶと言うことは、やはりそこが産卵すべき場所に近いのだろう。よく見ると枝上や葉には点々と白いカイガラムシやアリも見える。

飛翔するシロモンクロシジミ♀ 沖縄県石垣島 2024年10月26日
飛翔するシロモンクロシジミ♀ 沖縄県石垣島 2024年10月26日

飛翔するシロモンクロシジミ♀ 沖縄県石垣島 2024年10月26日
飛翔するシロモンクロシジミ♀ 沖縄県石垣島 2024年10月26日

 さらに一日おいて28日は前日の27日の快晴からうって変わって曇りがちで風もやや強かった。26日に♀が飛んでいた辺りの枝先は風で揺れている。飛翔力は弱そうな蝶なので、こういう日はちょっと林の奥の風が弱い辺りにいるに違いない。
 そういう考えで目星を付けた木を眺めていると、ちょっと怪しい蝶が葉陰に止まった。肉眼では小さすぎてわからないので望遠レンズで撮影して拡大してみると、やはりシロモンクロシジミだった。しかも縦長の翅形から見てまだ撮影していない♂のようだった。

静止するシロモンクロシジミ♂ 沖縄県石垣島 2024年10月27日
静止するシロモンクロシジミ♂ 沖縄県石垣島 2024年10月27日

 この個体は10:15に飛来し、10:50に別の葉に移るまで、同じ葉の上をグルグルと何度も回っているのを確認した。こういうのはゼフなどでよく見るが、吸水や葉上の甘露を吸う行動のようだ。撮影時は気がつかなかったのだが、この個体は葉上の水滴を吸って腹端から排出していた。

静止するシロモンクロシジミ♂ 沖縄県石垣島 2024年10月27日
静止するシロモンクロシジミ♂ 沖縄県石垣島 2024年10月27日

 上の個体を拡大してみた。腹端の水滴が光り、口吻を伸ばしている。

静止するシロモンクロシジミ♂ 沖縄県石垣島 2024年10月27日
静止するシロモンクロシジミ♂ 沖縄県石垣島 2024年10月27日

 文献によるとこの蝶の口吻はきわめて短くて2oもないらしい。この写真でもそのきわめて短い口吻が写し込めていた。

静止するシロモンクロシジミ♂ 沖縄県石垣島 2024年10月27日
静止するシロモンクロシジミ♂ 沖縄県石垣島 2024年10月27日

 この♂は10:50 小飛して近くの葉上に移動した。さらにこの5分後、やや空が明るくなったときに樹上に消えていった。テリ張り活動は午前中に行われると聞いているので、活動時間になったのかもしれない。

静止するシロモンクロシジミ♂ 沖縄県石垣島 2024年10月27日
静止するシロモンクロシジミ♂ 沖縄県石垣島 2024年10月27日

 コンデジで蝶に接近して撮影したが、環境が暗かったのであまりきれいには撮れなかったのが残念だった。その後、この木ではアマミウラナミシジミとタイワンクロボシシジミばかりが観られ、シロモンクロシジミは飛んでこなかった。

静止するシロモンクロシジミ♂ 沖縄県石垣島 2024年10月27日
静止するシロモンクロシジミ♂ 沖縄県石垣島 2024年10月27日

 何とか成虫を撮影できたので、人面蛹ともいわれる蛹などの幼生期も見てみたいと思い、周辺でカイガラムシを探してみた。背の低いマメ科植物ではアリがたかっているカイガラムシがあったがちょっと規模が小さいように思った。



 その後、蝶がいたところから30mくらい離れたところにびっしりとカイガラムシが付いてアリがたかったいわゆる「カイガラムシの木」を見つけた。これは幼虫を見つけたのも同然、としばらく探してみたが、全く見つからなかった。



 さきの♂が滞在していた木の枝をよく見ると、枝にはカイガラムシが点々と付いているのに気がついた。このカイガラムシは上のカイガラムシの木のような毛羽だったものではなく、平面的に張り付いている。ひとくちにカイガラムシと言ってもシロモンクロシジミが食べるのは、このような特定の種類なのかもしれない。ここまで到達したところで今回の調査は時間切れとなった。



 今回、幸運にもシロモンクロシジミの撮影に成功したが、これは複数人でタッグを組んで調査したことが大きい。たしかに一頭目は偶然にも私が見つけたものだが、それ以降は三人であれこれ考えながら調査を進めている。このことは単純に目の数が増えるということよりも、遙かに大きな効果がある。やはり単に既知ポイントで撮影するのと探索するのとでは全くアプローチが異なることを実感した。そしてこの蝶の一連の撮影が私にとってイワカワシジミの不振を振り払う逆転ホームラン。これでもし幼生期が見つかっていれば、逆転満塁ホームランでした。

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