2020年7月11日 奈良県山添村 クロシジミ

 連日の雨が続いているが、この日は午後から曇りの予報となったので、奈良県のクロシジミを見に行った。あちこちさがした後、ワラビの葉上に静止している♂を見つけた。

静止するクロシジミ♂ 奈良県山添村 2020年7月11日
静止するクロシジミ♂ 奈良県山添村 2020年7月11日

 2時頃をすぎると見晴らしのよい枝先で開翅してテリを張る♂も見られ始めた。

開翅するクロシジミ♂ 奈良県山添村 2020年7月11日
開翅するクロシジミ♂ 奈良県山添村 2020年7月11日

 左前翅の線状のキズが残念だが、半開する姿を撮影することができた。

開翅するクロシジミ♂ 奈良県山添村 2020年7月11日
開翅するクロシジミ♂ 奈良県山添村 2020年7月11日

 広角で捉えると下のような感じ。

開翅するクロシジミ♂ 奈良県山添村 2020年7月11日
開翅するクロシジミ♂ 奈良県山添村 2020年7月11日

 クロシジミのテリは待ち受け型で、その場所を確定した後は自ら飛び立って巡回するような行動はあまりしないので飛翔撮影はなかなか難しい。 しかしテリ張り場所が確定する前には、侵入してきた別個体に対してスクランブルをかけるときがあり、そういうときがチャンスとなる。

飛翔するクロシジミ♂ 奈良県山添村 2020年7月11日
飛翔するクロシジミ♂ 奈良県山添村 2020年7月11日

 しかしテリを張っている位置は少し見上げる場所なので、裏面ばかりを撮影することになってしまった。

飛翔するクロシジミ♂ 奈良県山添村 2020年7月11日
飛翔するクロシジミ♂ 奈良県山添村 2020年7月11日

 ♀は1頭だけ撮影することができ、裏面がかなり白化した新鮮な個体だった。時刻はまだそれほど遅くはないが、天気もよくないのでこの日の撮影はこれでお終い。

静止するクロシジミ♀ 奈良県山添村 2020年7月11日
静止するクロシジミ♀ 奈良県山添村 2020年7月11日

 下はこの日の一週間以上前の7月2日に同じ所で見つけた羽化直後の個体。低いところだったのであやうく踏みつけるところだったが、アリの巣穴から数センチくらいの芝状の草本の先で翅を伸ばしていた。蝶の左斜め下に黒く見えるのがアリの巣穴である。

羽化したクロシジミ♂ 奈良県山添村 2020年7月2日
羽化したクロシジミ♂ 奈良県山添村 2020年7月2日

 ところでアリとクロシジミとの関係は興味深いものがある。クロシジミがアリの巣の中で羽化するとそれまでアリをだましていた化けの皮(化学擬態といわれる)が通じなくなるため、クロシジミは大急ぎでアリの巣から逃れる必要があるとされている。クロシジミとはパターンが違うようだが、アリとの共生関係がよく話題になるムモンアカシジミの羽化個体が、アリを振り払うように高い枝先に逃れて翅を伸ばすのを見たことがあるが、それも同じ理由によるものだろうと思う。
 でもこのクロシジミを見ているとアリは何度もクロシジミの翅に触れているのだが、その時点では襲うようなことはなく、蝶も逃げることはなかった。ということはこの時点ではまだ化けの皮は完全には剥がれていないのだろうか。

羽化したクロシジミ♂ 奈良県山添村 2020年7月2日
羽化したクロシジミ♂ 奈良県山添村 2020年7月2日

 しかしアリが蝶の胴体に触れ始めると、蝶はアリを避けるように逃れ始めた。アリは腹端に噛みついているようにも見える。この間はわずかな時間の差なのだが、この時点では化けの皮は剥がれているのかも知れない。

羽化したクロシジミ♂ 奈良県山添村 2020年7月2日
羽化したクロシジミ♂ 奈良県山添村 2020年7月2日

 このようにしてアリの巣の中で幼虫期を過ごすクロシジミの面白い生態の一部を垣間見たような気がした。
 7月に入り各所で梅雨末期としても度が過ぎた大雨が続いており、被災された方々には大きな苦労があったことと思う。それにくらべれば取るに足りないことなのだが、雨のため近場のフィールド以外には出られずにいる。この撮影記録をまとめている時点でも雨が降り続いており、しばらくはこのままのようである。

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