2020年8月31日 三重県尾鷲市 ルーミスシジミ

 8月の最終日、三重県尾鷲市のルーミスシジミの撮影にチャレンジした。沖縄近海に大型の台風9号が北上中であり、この日以降は曇りや雨が予想されているので、避暑個体狙いはこの日が事実上最後になるだろう。実は尾鷲市のルーミス探索は今年4回目であり、8/18にはかろうじてルーミスと判る証拠写真を得ている。今回はその頃の調査の分も含めて紹介する。

 この日の朝、これまでの調査で良さそうだと感じた谷に入ろうとして林道を歩いていると、ミツバチの巣箱が設置位置から倒れて林道上に転がっているのが見えた。一週間前には異状は無かったし、遠くから見ても巣箱の周りにはたくさんの蜂が飛びまわっているのが見えたので、このような状態になってからさほど時間は経過していないと思う。直近では特に強風や地震などは無かったことから、こういうときはクマの仕業であることをまず疑うべきだろう。尾鷲の周辺は、以前からクマの目撃例が多く報告されている地域である。
 そのためちょっとビビりながらも遠くから写真を一枚だけ撮影し、そそくさと林道を引き返した。ちなみに左側の巣箱は倒れていないが、この巣箱にはハチが入っていないことを先週確認している。





 そういう状況だったので、この谷を諦めて少し移動し、8/18にルーミスを目撃した谷で粘ることにした。

 ルーミスを探していると、谷間の水を求めているのか何種類かの蝶が飛んでくる。今回調査した期間を通じて、谷にはサツマシジミが飛来するのを何度か目撃したが、真夏のサツマシジミはこれまで見た記憶がなかった。春や秋に見る個体に比べると非常に小型で、ヤマトシジミを少し大きくしたくらいの感じである。小さいし、翅も開かないだろうからこれでは撮影対象にはなりにくい。これからリンボクなどの花を食べて10月に発生する世代を狙うことになる。

吸水するサツマシジミ♂ 三重県尾鷲市 2020年8月20日
吸水するサツマシジミ♂ 三重県尾鷲市 2020年8月20日

 イシガケチョウも何頭か見かけたが、いずれも少し破損していた。

吸水するイシガケチョウ 三重県尾鷲市 2020年8月31日
吸水するイシガケチョウ 三重県尾鷲市 2020年8月31日

 ウラギンシジミは新鮮な個体が見られた。

吸水するウラギンシジミ♂ 三重県尾鷲市 2020年8月20日
吸水するウラギンシジミ♂ 三重県尾鷲市 2020年8月20日

 そして、昼前にようやくリンボクの下枝に降りてきたルーミスシジミを撮影することができた。これで熊野市紀宝町御浜町につづき、尾鷲市のルーミスを撮影することができた。

静止するルーミスシジミ 三重県尾鷲市 2020年8月31日
静止するルーミスシジミ 三重県尾鷲市 2020年8月31日

 さいわいにも落ち着いた個体だったので、接近して広角で撮影できた。

静止するルーミスシジミ 三重県尾鷲市 2020年8月31日
静止するルーミスシジミ 三重県尾鷲市 2020年8月31日

 このあとも2度ばかりルーミスを見かけたが、撮影できなかったので別個体かどうかわからなかった。いずれにしても非常に個体数は少ない産地だと思う。あまりにあっけないが、ルーミスのお話はこれでお終い。

 良さそうな場所を探して歩いていたときに見つけたスミナガシの幼虫。2齢くらいかと思うが、7月の上旬には夏型の第一世代が発生するはずのこの辺りにしては、8月の後半にこの大きさでは少し小さすぎるような気がした。ちなみにこの辺りの食草は常緑樹のヤマビワである。

スミナガシ幼虫 三重県尾鷲市 2020年8月18日
スミナガシ幼虫 三重県尾鷲市 2020年8月18日

 そして蝶とは関係は無いが、ルーミスを待っていたときに岩場の陰から現れたイタチ。写真の絵合わせではチョウセンイタチではなくニホンイタチのようである。これまでも撮影行でイタチを見ることはあったが、撮影できたのは初めて。

ニホンイタチ 三重県尾鷲市 2020年8月20日
ニホンイタチ 三重県尾鷲市 2020年8月20日

 このイタチはしばらく岩場の陰で見え隠れしていたが、不意に2mくらいの近いところに顔を出したのを撮影した。黒目がかわいく、300oでほぼノートリのカメラ目線である。

ニホンイタチ 三重県尾鷲市 2020年8月20日
ニホンイタチ 三重県尾鷲市 2020年8月20日

 尾鷲市のルーミスシジミは2014年に初記録されているが、それ以降の文献上の記録は知らない。たしかに少ないものとは思うが、暑い中で新しい場所を探索しようとする人も多くは無さそうだというのも記録がない理由の一つだろう。この夏はルーミス好調の感触から、例年出かける信州のゴマシジミなどにもあえて背を向けて、三重県内のルーミスシジミの撮影に拘った。その甲斐あってか、現時点で生息していそうな4市町をすべておさえることができた。とはいっても所詮、同じ三重県内で特に顔が変わるわけでもなく、きわめてローカルな自己満足テーマではある。でもこういうのが虫屋としての原点の一つであり、個人的には大きな達成感があった。

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